・・・・・痛い。
 そして彼はやりやがった。

クリスマスの5日前、私は彼の浮気現場を目撃した。

ホテルから出てくるところだった。

もっとも私はホテルに入るところだった。

「ほらね」

私は思わずそう呟いたのを覚えている。

簡単なはずだった。

とても簡単なはずだった。

私は簡単に彼を許せるはずだった。

でも、いざとなると彼に対する憎悪だけが浮き上がってくる。

私の作っていた逃げ道は、何の意味も持たないことにようやく気づいた。

「いいよ、私もやってたからお互い様だよね」

そう言って全ては終わり。

また元の生活が戻ってくるはずだった。

でも、私の心はそう簡単にはいかなかった。

深いところに何かが刺さっていた。

私はそれを抜くために懸命の努力をした。

許せば取れるかもしれない。

殺せば取れるかもしれない。

忘れれば取れるかもしれない。

私にはどれも出来なかった。

ただ、浮気を見て見ぬ振りをすることしか出来なかったのだ。

情けなかった。

言い出すことも出来なかった。

怒ることも、泣くことも、当たることも、責めることも、許すことも、何にも出来なかった。

そして私はそれに耐えることすらもできなかった。
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