女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 私はふう、と小さく息を吐いて頷いた。

「・・・じゃあ、帰ります」

 鞄を持って、座ったままで頭を下げる。

「送って頂いてありがとうございました」

「ああ」

 車から降りて、ドアを閉める時になって、気付いた。あ、と口から言葉が出る。

「ん?」

 シートベルトをひっぱりながら、桑谷さんが私を見た。

 ドアを一度閉めると、窓を開けてくれる。私は運転席側に回り、窓際に顔を寄せて聞いた。

「桑谷さん、下の名前、何て言うんですか?」

 彼がにっと口の端を持ち上げる。

「おー、俺に興味持ってくれてんの。嬉しいー」

 ・・・・軽い。この体格のいい男が、このノリってどうよ。私が正直にがっくりしていたら、あははと笑った。

「何だと思う?」

「・・・・・もういいです。帰ります。お休みなさい」

 体を起こして行こうとしたら、窓からシュッと手が飛んできて、私の手首が捕まった。


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