女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
あらまあ、私ったら・・・。片手をおでこに当てて唸る。なんて女だ。
「家、このアパートであってる?」
桑谷さんが、道の向こう側のアパートを指差した。私は頷く。
「はい、あれです。本当にすみません。―――――あの、コーヒーでも・・・」
言いながら運転席を見たら、ハンドルに腕をおいた体勢で桑谷さんは首を振った。
「そうしたいのは山々だけど、今日は遠慮しとくよ。帰って寝た方がいい」
「でも」
「上がったら―――――」
私を見て、口の端をあげ、にやりと笑った。悪戯っ子のような笑顔だった。
「また、君に手を出したくなる」
私も何とか笑顔を作った。
「・・・元気ですね」
いやいや、そう言いながら桑谷さんは運転席にだら~っともたれかかった。
「元気ねーよ。俺明日は早番だし、もう実はクタクタのぼろぼろ。今日は苦情処理もあってそんなに売り場に入れなかったし」
・・・へえ、そうだったんだ。苦情処理もしてるなら、結構責任者なのかな?売り場に見当たらなかったのは、裏で事務所に入っていたからなのか。