pianissimo.
「うん。じゃあね」

と返しながらも、ライガの苗字って何だっけ? っと……。ふと思い表札を盗み見た。


新しくもなく古くもない、ごく普通の庭付き一戸建て住宅。石造りの門に埋め込まれている表札には『成瀬』という筆記体の文字。


『ナルセ、ライガ』

心の中だけで呟いた。



そうこうしている間にも、ライガは雨に打たれ続けている。どうせ傘を貸すと言っても断られるだけだし、早々にその場を後にした。


ほんの少し自転車をこいで、気になって仕方なくなって振り返れば、まだ家の前に突っ立ったままのライガが、私に向かって軽く右手を上げた。

濡れた黒髪がペタンとして重そうだ。そのせいか、遠目に見るライガは余計に小顔に見えた。


< 57 / 401 >

この作品をシェア

pagetop