pianissimo.
一通り水を撒き終えたので、しゃがんでホースを片付けていると、

「凜子先輩」

またあの人懐っこい重低音が頭の上に落ちて来た。


ちょっともう、いい加減にしてよ、と思いつつ見上げれば、やっぱりライガがそこに立っていた。

陽光を後ろから浴びて、顔に陰が差しているけれど、それでも眩しくて目がチカチカする。



「なんか怒ってるみたいだけど、もしかしてヤキモチ?」

呆然と見上げたまま何も言わない私に、ライガが悪戯っぽく笑って、躊躇うことなく『直球ど真ん中』を投げてきた。


「怒ってなんかっ……」

咄嗟に口を開いたけど、狼狽え過ぎて巧く続けられない。ライガはフッと、今度は柔らかい微笑みを浮かべ、私の目の前にストンと腰を落としてしゃがんだ。



「あの子とは何でもないよ――」


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