【短編】ブレンディ・ロマンス
「鈴原、ちょっと」


営業部に書類を持っていった帰り、部署に戻る階段でことりを追いかけてきた瀬能主任に呼び止められ足を止める。

用件はわかっていたから、何も言わずことりは彼が近づくのを待った。



「その、すまなかったな。瑞穂のこと」

やはりといった内容に、ことりは嘆息する。どうやらこの様子なら仲直りしたようだ。


「思うならもっと考えてあげたらどうです?せめてドタキャンはやめてあげて下さい」
「次から気をつけるよ。思い知った。あいつもいつまでも俺に甘えてた泣き虫の子供じゃないんだって」



眉を下げ、困ったような瀬能主任の微笑みは、口に出さずとも相手のことを想っていることが伝わってくるようだ。



「鈴原も、色々あるみたいだが、シンプルに考えてみたらどうだ?今まで気づかなかったものが何か、見えてくると思うぞ」
「え・・・?」


俺がそうだったと、意味深な発言を残した主任は営業部へと戻っていった。


遠くなっていく主任の背を呆然と見送ったことりは、言われた言葉が何か思い当たり額を押さえた。



「・・・・シンプルに、かあ」




胸の奥でもやもやとした雲のようなものに隠されたことりの気持ち。



小さかったそれは、いつの間にか大きくなってもやもやごと飲み込んでしまいそうだった。
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