蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜想う者〜‡

あれは、初めて”恋”というものを知った日。
一般的に少し遅い高校生の時だった。
数人の友達と馬鹿な話をしながら、ファミレスで働く女の子に皆で会いに行く。
今思えばくだらない。
可愛い子に、皆で”恋”をする。
厳密に言えば、そんなもの”恋”ではないだろう。
男という生き物は、そういった経験を積んで”愛”というものを学んでいくのだ。
俺もそんなゲーム感覚で偽の”恋”をした。
だかそんな心の裏では、本当の”恋”をしたいと切望していた。
もやもやとはっきりしない日々。
何かを求めているのに、何を求めているのかが自分でもわからない。
それが引き金だったのか、引き金がきっかけだったのか、その頃からたまに同じ夢を見る。
いや、同じ夢を見ている事を自覚したと言ったほうが正しいかもしれない。
自覚すれば、強烈な夢だった。

どうしようもなく悲しくて…。
苦しくなる程辛くて…。
許せない程いきどおる。

大切な人。
愛した人だった。
絶対に幸せにしようと誓いを立てていた。
なぜ教えてくれなかったのか。
なぜ何も言ってくれなかったんだっ。
なぜこんな事になるッ。

叫んで飛び起きる。

心臓が早鐘を打ち、悪夢を見た後の胸糞の悪さがわだかまっている。

そんな日が幾度かあった。
それは今でも…。
そして、久しぶりに見た今日は以前よりも鮮明に見えた。

隣では、昏々と眠る蒼葉が居る。
夢がまだ手の届く所にあるからだろうか。
夢で亡くした彼女が蒼葉に重なる。
あの時の慟哭を忘れられない。
微かにふるえる両手は、彼女の血で染まっているように感じる。

恐い。
亡くす感覚がリアル過ぎて…。
失う悲しみが強過ぎて…。

冷えきった身体をもう一度布団に潜り込ませ、隣で深く眠る蒼葉をさっきよりも強く抱きしめて目を閉じた。

まだ明けぬ夜を過ごす為に…。

夢の中の愚かな男に捕まらないように…。

今大切に想う人を、隣で生きている事を確かめるように…。


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