蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜眠る者〜‡

〔ここじゃ〕

突き当たりの壁にそう言って手を当て、クウルは何事かを呟いた。

ズゴゴッ…

壁の一部が吸い込まれ、横に開いていく。
人二人並んで通れる程の入り口ができた。
クウルに付いてそこを通れば、屋敷の大広間程の空間が広がっていた。

「わぁ…ひろ〜い。
うぉ、天井きれ〜ぇ。
ステンドグラス?
何なんだここ?」
〔ここがあちらの世界へ繋がる扉の間じゃ。
もう時間的に扉は閉じてしまっておるがの。
お前達に見せたいのはこの奥じゃ〕

そうして向かう先には、美しい彫り細工のある入り口があった。
一歩中に踏み込めば、そこは今までの洞窟とは違う岩肌の部屋になっていた。
そう、まるで墓石の様な黒光りした石の部屋。
至るところに彫られた文字のような物。
部屋の隅には鏡台や、机。
本棚も置かれ、本当に誰かの部屋の様…。

「…何か…姉ちゃんの部屋みたい…」

そうだ。
最低限必要な物しか置かない蒼葉の部屋の様だ。
違うのはこの無機質な雰囲気だけ。

「…ベッドに誰か寝てるっ…」

その言葉に得も言えぬ不快感が胸に広がった。
そこにあったのは、棺だった。
輝くクリスタル。
その中に、眠る人が見えた。

「っ…誰っ?
…姉ちゃん…っ?」
「…っ」

とても蒼葉に似た面差しをしている。
だが、年齢的には蒼葉より少しばかり上だろうか。

〔この方が、姫の前世。
リュスナ・フォル・カルナ様じゃ〕

今にも目を開くのではないかと思わせる安らかな顔。
死んでいるとは思えない。
いや、思いたくない。

「あれ…?
何でだろ…涙が出てくるや…なぁ、柚月…」

言われて気がついた。
頬を涙が伝う。
なぜかわからない。
悲しみと胸の痛みに顔が歪む。

〔姫に似ておる。
心は同じじゃからな…あまり感情を面に出さん。
それでいて強い決意の元に動く。
そして、とても脆い…〕
「蒼葉様は…何かを悔いておられるのですね…。
どれ程側にいても、どこか遠い。
心はまだ過去に囚われている。
私の知らない過去に…」
〔そうじゃな…。
忘れよとは言えん。
あの日々は、辛く深い傷を負わせた。
一生癒えぬ心の傷、姫にとっては幾度生を終えても未だに癒える事がない…。
それはどれ程の幸福で埋めてやれるじゃろう…。
姫は幸せかのぉ…?〕
「…姉ちゃん…。
だから行っちまったのか?」
〔そうじゃ。
少しでも傷を癒す為に。
必要な事なんじゃ…〕


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