蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜特区〜‡

『リュスナねぇさま、リュスナねぇさま。
はやくおとなになりますから、まっててくださいね。
そうしたら、つよくなって、ねぇさまをまもってみせます』

きらきらと輝く笑顔。
未来を恐れない子。
なぜ今まで考えずにいられたのだろう。
あの子は平穏の中で生きることができる。
その笑顔を曇らせる事などなく、まっすぐに大人になる…そう確信していた。

「この腕輪にあるべき石は、城にあるわ」

ナーリスに言われて、真っ直ぐ人族の王都を目指し、三人と一匹は、街道を進んでいた。
森を後にして三日。
人族の国境が近くなるにつれ、奇妙な光景が目立ち始めた。

「…彼らは、難民…?でしょうか…?」

お粗末なテントを張り、街道脇で暮らす人々が嫌でも目に入る。
お世辞にも暮らす場所とは言い難い。

「皆、国から逃げて来たのよ…。
多種族を受け入れられない人族は、他国に亡命しようなんて考えられないから、こうしてここで暮らすしかないの」
「軽く集落ができそうですね。
なるほど、この辺りは…どの国にも所属しない特区でしたね」
「ええ」

この世界には、隣接する国は存在しない。
それは、国と国の間に、必ず”特区”があるからだ。
便宜上”特区”と言うが、それは神霊の土地であることを意味している。
決して侵してはならない場所。
もしも、国の土地として勝手に振る舞えば、厄災が降りかかる。
いわゆる”祟り”だ。
大国として、多くの国を吸収したカルナ国であっても、地図上は大きな土地と見えて、実際は特区である森や、街道としと使う土地、草原、湖といった土地が点在しているのだ。

「こいつらは…死ぬだろうな…」
《『うむ。
この地の主がイラついている。
もはや時間の問題であろう』》
「そんな…っ」

小さな子どもや、とても起き上がれそうにない老人。
虚ろな目をした多くの人々。
生気が感じられなかった。

「っ…”化け犬”…この地の主が何処に居るかわかりますか…?」
《『わかるが、知ってどうするのだ?』》
「話を…今しばらくの猶予を…」

苦々しく唇を噛むこちらを見た”化け犬”は、すべてを読み取ったように得意気に告げた。

《『良いだろう。
案内しよう。
それと姫よ、我の名は”デュカ”だ』》
「ありがとうっ、デュカ」




< 84 / 150 >

この作品をシェア

pagetop