Do you love“me”?

「杉本さん、ありがとうございます」

「――え?」

「私、忘てました」

「……」

「近くに火があったとして、それで手が温まったとしても……心が温まらないと、意味がないんです」

笑顔をスッと引っ込め、真顔になった彼に、静かに言葉を紡ぐ。


「それに私、温めて貰うだけの女にはなりたくないって――彼を温められるような女になりたいって、そう思ってたのに」

その言葉を聞いて、何も言わずに私の目を見ていた杉本さんが、ゆっくり口を開いた。


「でも、それで凍え死にさせるような男なんて、選んでも苦労するだけだよ。違うか?」

「……違います」

「え?」

「彼は、そんな人じゃありません」

その一言を吐き出すのと同時に、自嘲的な笑いが込み上げた。

だって私、一体何をしていたんだろう。


「はぁー……。私、バカみたい」

予想外だったのか、私の反応に少し驚いたような顔をした杉本さんの目を見つめ、再び口を開いた。


「彼は、私の全てを受け止めてくれる人です。何でそんな事を忘れてたんだろう」

色んな事にいっぱいいっぱいになって、勝手に自分を追い詰めて……。


「マイナス思考の私が、いつの間にか、彼の偽者を作り上げてたみたいです!」

にっこり笑って、机の上の書類をまとめると、パソコンの電源を落とした。


「すみません。今日はもう上がります。付き合わせてしまって、すみませんでした」

目の前で眉を顰めている杉本さんに、ペコリと頭を下げる。

それで会話は終わったと……私は思っていた。


――だけど。


「ねぇ、佐々木さん。こんな諺《ことわざ》、知ってる?」

“外国の諺だけどね”と付け足して、私を見つめながら杉本さんは言ったんだ。


「“恋する者には、バラの花も棘なしに見える”。今の君は、まさにそんな感じ。何もわかってないよ」

「……っ」

何でこの人に、そんな事を言われないといけないの?

私と稜君の、何を知っているっていうんだろう?


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