Do you love“me”?

目の前で、まるで私を嘲笑うかのように言い放った彼に、思わず口を開いた。


「どっちが本当の杉本さんですか?」

「……どういう意味?」

「今日は随分大人気ないことを仰るんですね」

「……」

「失礼します」


苛々とした気持ちのまま言葉を吐き捨て、頭を下げて彼の横を通り過ぎようとした瞬間――

「……っ!!」

私の腕を掴んだ、杉本さんの大きな手。

バッと振り返った私に、杉本さんは言ったんだ。


「諦める気、ないよ?」

「無理です」

「それは、やってみないとわからない」

この人は、本当に昨日までの杉本さんと同一人物なんだろうか?

あまりの豹変っぷりに、まだ困惑している。


「昨日までの杉本さんだったら、“百億が一”くらいは、好きになる可能性もあったかもしれませんけど」

「“百億が一”か。それも随分だな」

「だけど、もう100%あり得ません」

「あっそう。まぁマイナスからのスタートって事で、頑張るよ」

「……失礼します」


あの余裕の表情は何なのか。

怒りで、鳥肌が立つ。


“恋する者には、バラの花も棘なしに見える”。


「……そんなんじゃない!」

込み上げるのは、怒りと悔しさ。

自分で勝手に疲れて、勝手に稜君の気持ちを想像して……。


“辛い時は、ちゃんと辛いって言って”

“淋しい時は、ちゃんと淋しいって言って”


稜君。

稜君はそう言ってくれていたのに。

自分のロッカーから、カバンを引っ手繰《ひったく》るように取り出すと、足早に会社を出てすぐにタクシーを拾った。


「……」

ちゃんと稜君に話そう。

全部、全部。

本当は、毎日メールを送りたかった。

声が聞きたかった。

でも……邪魔しちゃいけないと思って出来なかったって。


それに、どれだけ稜君からのメールや電話が嬉しかったか。


全部、稜君に伝えよう。

稜君がいない事が、こんなにも淋しいって。

< 241 / 397 >

この作品をシェア

pagetop