僕の女神、君の枷~幸せって何だろう?
ある晩、寝床でうつらうつらしながら待っていたけど、彼のおやすみの声が聞こえてこない。
時計を見るともう一時を回っている。
私は不安になって、寝床から起き上がった。
廊下に出ると、居間の明かりがまだついていて。
どうやら、彼は居間にいるらしかった。
「どうしたの?」
ソファの横の本棚に向かって立ち尽くす彼の背中から声をかけた。
「弘美さんこそ、まだ寝てなかったんですか」
彼は驚いたように振り返った。
「だって、寝れないよ、君がいないと……」
私は、口にした言葉にハッとした。
「寒いし、お茶でも入れよっか」
咄嗟に誤魔化したけど。
「僕、これを見つけて読んでいたんです」
彼がそう言って私に見せたのは、古い新約聖書だった。
私が女学校時代に使っていた年代物だ。
「何で、こんなもの」
「たまたま手に取ったら、ほら、ここ、この栞が挟んであるところ」
彼が指し示す箇所を見ると、そこは、マタイによる福音書の第七章。
三十一節から始まる部分に赤鉛筆で無造作に線が引かれていた。