さよなら、いつか。①―幕末新選組伝―

「こんないい部屋使わせてもらっていいんですか?」




きっと牢屋みたいな部屋で暮らすんだろうと思っていたから、この部屋は嬉しい。




畳六畳分くらいの、決して広くはないけれどこの時代でこの部屋は高貴だと思う。




「まぁ、長い間この中に引きこもらなきゃいけないわけだから、悪い部屋では可哀想って近藤さんが。」




近藤さん。




本当に頭が上がらない。




私がこっちに来てからお世話かけっぱなしだ。




「ありがとうございました。」




「お礼なら近藤さんにいいなよ。」




沖田さんがゆるゆると頬をあげる。




今までとはちがう顔。




近藤さんの話をするときはこんな顔もできるんだ。




沖田さんが近藤さんを慕うのはみていればすぐにわかった。




「逃げようなんて考えないでね?俺はいつでもキミを殺せるんだから。」




くくっと笑う。




この言葉を聞くと、まだ完全に信頼されていないんだなぁと思う。




そりゃあ、当たり前といったらそうなんだけど。




気になったのはもうひとつ。




「沖田さんお幾つなんですか?」




沖田さんは私のことを“あずみちゃん”や“キミ”と呼んでくる。




“キミ”なんて呼ばれるのは嫌だし、年上なのだとしたら“ちゃん”なんてつけて欲しくない。




「俺は今19だよ。」




19歳。



 
ということは、現代にいれば大学一年生ってわけか。




高校二年の私からみれば、沖田さんは2つ年上。




「私のこと呼び捨てでいいですよ?」




というか、寧ろそっちがいい。




なんだか恐れ多いし。




沖田さんは少し困った顔をした。




「じゃあ、あずみ・・・。」




そう言って沖田さんはうーんと考え込んでしまった。




「あずみは呼びにくいな。」












「・・・あず。」





ドクン。



心臓が暴れ始めた。



名前を呼ばれただけなのに。


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