漆黒の黒般若
「とりあえず、これ来て。あと髪乾かせよ」



「うん、ありがとう」



着替えと手拭いを借りた楠葉はいそいそとその場で着替え始める



「お、おい!ここで着替えるなよ」


「えー、いーぢゃん。だって…」


「だって?」



その後に続く言葉をとっさに押し戻す


「ううん、なんでもない。じゃあ、お言葉に甘えて少し出ててよ」



「はいよ」


小十郎が出た部屋で1人落ち込む


先ほど出掛けた言葉は


“裕はあたしの着替えなんて見慣れてるでしょ?”



彼は…

裕ではないのだ



裕はもう…きっと…


そこまで考えると寂しくなった



「おい、終わったかぁー?」


なかなか出てこない楠葉に痺れをきたした小十郎は襖を開けた


「って、まだなんも着替えてないじゃん。なにしてんだよ、髪だって濡れたままだと風邪……」


ドスッ









ギュッ…



「楠葉…?」


小十郎を見たとたん今まで我慢してきた寂しさが一気に押し寄せた



「うぅ”…、裕…。裕なんて嫌いだ。ばか」



「楠葉…」



「もう裕はいないんだ…。小十郎は小十郎なんだよ。裕じゃないの。小十郎はもう大切な人なんだよ?」


心の声が口から出ていき、訳のわからないことを話し出した楠葉だったが小十郎は何も聞かず自分の胸でうずくまって泣く小さな彼女を抱きしめてあげた



今日で裕を探すのをやめよう


そう決意したのだが涙が止まらなかった



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