漆黒の黒般若
太陽が真上に登り、京の街も少しずつ賑わってきた



「あたしの思い人はとても優しい人なの。彼は例えるなら木々から降り注ぐ皐月の木漏れ日のような人。とにかくあたしはこれでもか、と言うくらい彼がすきなのよ」



目の前でこんなにも大胆に自分の思い人についての愛を語っているお信さんなのだが、頬を赤らめて話すお信さんを羨ましく思ってしまうほどだった



「あたしはね、楠葉ちゃん。本当はここに来てはいけないのよ」



「ここに来てはいけないって…、どういうことなんですか…?」



寂しそうに話すお信さんにあたしの中で何かが反応した



こんな感じのこと、前にも……



楠葉が思い出さないうちにまたお信さんが話し出した



「あたしはね、遊女なんだよ…」




この言葉を聞いた途端楠葉はある記憶がフラッシュバックした



“しょせん、あたしたちは篭の中の鳥なんだ”



「お梅さん…」




< 330 / 393 >

この作品をシェア

pagetop