漆黒の黒般若
「いらっしゃぁい、あっ。山南様。お待ちしていました。明里は上の座敷ですよ。さぁ、こちらへ」


「やまなみ…様?」


聞き慣れない名前に首を傾げるあたしに山南さんはボソッと耳打ちした


「私の姓はそうとも読むんですよ」


「へぇー、そうなんですか」



そんな話をしている間にお信さんの待っている部屋についた


「では、ごゆっくり…」


部屋に案内すると従業員らしき男の人は戻っていった


「では、開けますよ?」

「はい…」



なんだかお信さんに会うことに緊張を覚えた

島原という場所や、この街がそうさせているのだろう


ガラッ


襖を開けると知らない人がいた


「よぉ、お越しくださいました」


きらびやかに着物を着飾り、輝く簪をつけたお信さんがあたしと山南さんに頭を下げている


「明里、今日はお前に会いたいという人がいてね…。少し話しをしてあげなさい」


そう言われて顔をあげたお信さんの顔には驚愕の色が浮かぶ


「楠葉ちゃん…、なんでこんなとこに?」


その言葉であたしは山南さんを驚いて見た


「山南さん、あたしが来ることお信さんに言ってなかったんですか?!」


「えぇ、言ったら明里は必ず反対しますからね」


困ったような顔で笑う山南さんをお信さんはキッと睨み付けた


「どうして連れてきたんです?楠葉ちゃんがこんなところに来たら危ないじゃないの!山南さんがこんな無謀な事するような人とは思わなかったわ」


あきれたように怒るお信さんをなんとかなだめようと口を開いた楠葉にも明里の怒りは飛んできた


「楠葉ちゃんも楠葉ちゃんよ!ここがどういう所かわかっているでしょ?もぅ、2人して…やってることが無謀だわ」


あきれたようにため息をつく明里の頭に山南さんが手を置く


「スッキリした?」


にっこり笑いながら頭を撫でる山南さんを見上げると明里はコクりとうなずいた


「あの、お信さん。ごめんなさい…。あたしが山南さんに無理言って連れて来てもらったんです。その、最近会えなくて寂しかったのもあって…」

おどおどしながらなんとかお信さんに理由を話そうとするが全部話終えないうちにあたしはお信さんの胸のなかにいた


「でも楠葉ちゃんとまた会えるなんてうれしいっ!最近会えなくてごめんね。あたしも寂しかったぁ」



そう言いながらギュッとあたしを抱きしめる


なんだかいつものお信さんに戻ったようで楠葉はほっと胸を撫で下ろした


「ほら、今日はせっかく来たんですからゆっくりしていきましょう。まだ時間もありますし」


抱きあうあたしたちの横から山南さんが声を掛けた


もうちょっと
と、言うお信さんに注意しながらも山南さんの顔は幸せそうだった


< 389 / 393 >

この作品をシェア

pagetop