漆黒の黒般若
「あたしの名前は坂下楠葉です。名前以外であなた達に話すことはありません」

名前だけを述べ、にこやかに笑う楠葉に歳という男は怒りを露にした



「ふざけるな…!おい、こいつを蔵にいれろっ」


「しかし、土方さん…。こいつは熱があるんだ!蔵なんかに入れたら死んじまうよ」


先ほど目の前にいた男があたしをかばってくれる


「平助。どうせ、こいつの処分は決まってる。蔵で死のうが一緒だ!」


土方はあたしをかばった平助という男にいい放った



周りがどよめくなか土方に腕を捕まれたあたしはふらふらするのを我慢して彼に連れられるまま中庭の蔵に歩きだす


そのまま倉に押し込められたあたしは縄をかけられ閉じ込められた




「いいか、今から処分を話し合ってくる。決まるまでそこにいるんだな、大人しく話せばいいものを…、本当にバカな奴だ」



蔵の思い扉を閉めながらいうと、彼は去っていった



“あたし、死ぬんだ…”

楠葉は朦朧とする意識の中で考える

死ぬことに恐怖はない

祐を失った時あたしは感情を捨ててきたんだ


あたしはどうなってもいい

でも、殺された祐は?
仇をとらずに死んでいいの?


吉田はこうしている間にも祐や、あたしのことを忘れて生きているかもしない


それでもいいの…?


あの世で祐やお父さんとお母さんはこんなあたしを笑顔で迎えてくれるの?


……だめだ。



あたしはこんなところで死んではいけないんだ


仇を

祐の仇を…


死ぬ時は吉田も一緒に連れていくんだ



あたしは途切れ途切れの意識を必死で繋ぎ止める


熱が上がるのが分かる
身体中がアザだらけで傷む

だけど…


生きなくちゃ…




これはあたし1人の命じゃないんだ


沢山の人の命を背負ったあたしはまだ死ぬことを許されない



楠葉はか細い声で叫んだ


「…だし、て…だしてっ。ここからだしてっ!」


小さかった声はじょじょに大きくなっていく


それはまるで生きようとする気持ちが大きくなっていくことに比例しているように…



「だしてっー!」


ありったけの声で叫んだとき



ギィイ…



固く閉じられていた蔵の戸が開いた

涙と朦朧とする意識で視界が歪む



蔵を開けた彼に楠葉は言いはなった

「あたしっ、生きたい…」



そのまま楠葉は意識を手放した
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