ピアノレッスン
少しだけ開いているドアをそっと開けて中に入る。



秋月は背を向けたまま鍵盤に向かっていて私には気づいていなかった。


流れるような指先が奏でるメロディは近くで聴くとますます胸をきつく締め付ける。



私はそっと秋月の後ろに立つと、その背中を優しく包み込んだ。

けれど、そのメロディは鳴り止まない。



複雑な感情が渦巻くその心境を映し込んだような悲しいメロディ


しばらくすると、最後の音色がポロンと響き、再び部屋の中に静寂が訪れた。











「亜澄・・・」


秋月はゆっくりと振り向くと、いきなり私を床に押し倒した。


でも、抵抗はしなかった。


なぜだか、そうしたいと思った。


冷たい指先が私の頬をなぞり、ゆっくりと唇が重なる。


部屋に差し込んだ月明かりは綺麗に磨かれたグランドピアノを輝かせている。
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