彼女志願!
彼はのどをならすようにクックッと笑うと、胸元から名刺を取り出し、私に差し出した。
翡翠社
第二営業販促部
松田英二
「裏には番号、書いてるんで」
「はぁ……」
ずいぶん軽いノリのひとだなぁ……。
と思いつつも、名刺を受け取らないわけにもいかず、もらったそれをバッグに押し込む。
「――じゃあ、失礼します」
なのに松田さんは、ころっと表情を変えて、首を傾げるようにして私の顔をのぞき込んだ。
「もう帰っちゃうんすか?」
「はい。仕事があるので」
一礼して離れようとすると、
「あ、ちょっと待って。鴻上先生。彼氏、います?」
「――へっ? か、彼氏??」
「いないなら立候補しちゃおっかな~」
どこまで本気なのか……。
いや、ただのノリだ。間違いない。
なんだか派手でイケイケっぽいし。
モテない作家をからかって遊んでる気分なんだろう。
「あはは……では」
笑ってごまかして、その場を足早に去ることにした。