【喫煙者につぐ、おい喫煙者!】
「虫……ですか?」 

そうやって僕と彼女の会話は始まった。

「そう」と頷く彼女。虫って……寄生虫の類だろうか?

「なんていうかね、身体の隙間に虫がいるのよ。ザワザワって……サワサワ、かな? まぁ、そんな感じで。それが私の身体を内側からジワジワと食べてるんだよね」

 ホラーだ、と僕は少し笑ったのだけど彼女が「笑い事じゃないわよ」と頬を膨らますものだから「冗談ですよ」と何が冗談なのかわからない台詞を言ってしまう。

「なんで貴女の身体に虫がいるんですか?」

 失敗を紛らわせるつもりで言ったのだけど、彼女はニコッと笑って「良い質問ね」と褒めてくれた。

「思うに、皆もともと持ってる虫なのよ……君は虫を感じたことある?」

 僕は記憶を小学生くらいまで遡らせてみたけど、そんな感覚味わったことがない。その旨を伝えると、彼女は一度だけフンッと鼻をならし「君は幸せ者なんだね」と嫉妬の目でみてきた。

「君のはまだ孵化してないんだよ。あいつらは孤独を餌にするから」

「貴女は孤独なんですか?」 

「多分ね」

 彼女はどこか寂しそうに呟き、だけど「狐が一匹」と言いながら右手を狐の形にしておどけてみせた。
 字が違いますよ、と言おうとして、だけど何故か僕の口からでたのは溜息だった。

「あっ、馬鹿にした?」

「……だからタバコを吸うんですか?」

「そうだよ」

「タバコの煙で虫を殺すために?」

「そうだよ」

「殺虫剤みたいに?」

「そう」

「身体の隅々に?」

「そ」

「本当に死ぬんですか?」

「さぁ?」

 そこまで話して、また彼女はタバコを吸い始める。

 孤独を食べてくれる虫を殺して、彼女はどうするのだろうか。孤独を抱えて生きたいのだろうか。なんだかよくわからない。

 こうしてる間にも彼女の中の虫が断末魔の叫びをあげながら死に絶えているのか。
 
「……今日はもう寝ます」

 それだけ伝えると、「じゃあ私もー」と言って布団に入ってくる。いつからか二人で寝るようになったのだけど、寝てる間も虫は彼女を喰らっているのだろうか。
 そんなことを考えていたら、

「孤独を食べて、寂しくなるのよ」

そんなことを彼女が言った気がしたのだけど、次の瞬間には彼女は熟睡していた。
< 5 / 6 >

この作品をシェア

pagetop