【喫煙者につぐ、おい喫煙者!】
「……結構近くにいるんだけどな」

 少し大きめの声で呟いてみたけど、結局彼女が起きることはなかった。




 次の朝、目覚めると彼女はいなかった。赤いジャージは丁寧に畳まれていて、部屋も広く感じる。

 予想はしていたけど、やはり心が軋んだ。
 ザワザワ、した。
 サワサワ、した。

 ふと机をみると、タバコとライターだけは置きっぱなしで、横にはメモ用紙が置いてあり、

『今度、うちに根性焼きを食べに来てください。


とだけ書いてあった。

 酷く不器用な笑顔を浮かべながら、僕はタバコを一本だけ取り出し火をつける。

 気付いていた。
 当たり前のように僕は孤独で、彼女は決して孤独なんかじゃなかった。
 
 ただ、僕は寂しくなくて。
 だけど彼女は寂しかっただけで。

『孤独を食べて、寂しくなるのよ』

 きっとあの虫は、孤独を食べて寂しさに成長するに違いない。
 彼女の虫はとっくに成虫になってしまっていた。

 なんて、いじわるで汚くておせっかいで、邪魔な虫なんだろう。

 大きく息を吸いこむと、煙が僕の口腔を満たし、舌がピリピリと痺れ、次の瞬間には盛大にむせてしまった。

「これは……虫の前に君が死んでしまうと思うよ」

 だけど勿論返事はなくて。

 どこか遠くで狐が鳴いた気がした。

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