そしていつかの記憶より
第1章

1話

大学1年の冬。

私は一台の車に撥ねられた。





────────そしていつかの記憶より。





いつの間にか眠りに落ちてしまっていたらしい私は、ポケットの中で震えた携帯によって目を覚ました。


ゆっくりと顔を上げると、教授が必死に授業内容を説明しているところだった。



私は、さっき見ていた夢の内容を思い出す。


最近見る夢はいつもあの事故のことばかりだ。
だけど今思い出そうとしても何故か思い出せない。

雲がかかったかのように、ぼんやりと形のない記憶がふわりと出ては消えるような感じだ。



(・・・そうだ、メール)




携帯にメールが受信していたことを思い出して、音を出さないように携帯を開いた。



メールの送信者は、中学からの親友の桜井陽子(サクライ ヨウコ)だった。


『さっき木原と佐崎に会って、今日は講義終わったらしいからサークルに顔出しにいくんだけど、いつかも行こうよ!』
という短く端的な内容は、陽子らしいと言えば陽子らしいな、と思った。




(木原くんと、佐崎くん、かぁ)




もう一度、私はあの事故にあった日のことを思い出していた。
その日は、教授に授業内容を確認しに行っていて、帰りが少し遅くなった。


外は曇天、空からは雪が降っていた。・・・らしい。




らしい、というのは私はその前後の記憶がほとんどないからだ。




得に前後の、前者の方の記憶はひどい。

ここ1年の記憶が全くない。
特に行動や人に関しての記憶が吹っ飛んでいるのだから、大学に復帰した最初はとても困った。


友達に話しかけられても誰だか分からなかったし、
授業についていくのも必死だった。
自分の得意分野である文学部を専攻していなかったらどうなっていたか、なんて恐ろしくて考えられない。




後、自分が”カード&ボードゲームサークル”という胡散臭いサークルに入らされていることも知った。

入学式の後、サークル紹介で知らない先輩に無理やり連れて行かれたらしい。
それから断るに断れなくて入った。
ちなみにそのサークルの人数は私を合わせて現在6人だという情報も陽子から聞かされた。






「今日はここまで」



先生のその言葉を聞いてから、私は陽子に返信をする。

『すぐいくね』と。

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