そしていつかの記憶より
サークルは、通称サークル棟と呼ばれる小さな部屋がいくつもある場所に部室がある。
そして私の所属する、カード&ボードゲームサークルもその例に漏れずに、そこにある。


古い扉を開けると、既に数人のメンバーが揃っていた。




私は、その中の唯一の先輩からオーラを感じ、その場から動けなくなった。






「──ロン、リーチ一発タンヤオ ドラ2!」






その声を聴いた瞬間、うわぁぁあ、と一人の男の子からのうめき声が聞こえた。
それではっとし、私はようやく部室の中まで入ることが出来た。



「あ、いつか!」
陽子が私の存在に気付いて、麻雀卓の前に座ったまま私を呼んだ。



(今日は麻雀か)



「あら、いっちゃん。おはよう」
「おはようございます、加奈先輩。今日も絶好調ですね」
「ふふ、私の取り柄ですから♪」


おっとりとした仕草で笑うのは、一つ年上の三上加奈(ミカミ カナ)先輩。
彼女がこのカード&ボードゲームサークルを設立した張本人だったりする。


カード&ボードゲームサークル、とは名ばかりでただ遊んで見えそうだが実は違う。
その正体は賭け事という、先生たちに見つかったら即廃部にされそうな問題のあるサークルなのだ。


先輩はギャンブルが好きで、こうやってよく賭け事をやっている。・・・いいのかなあ。




「おはよう、いっちゃん・・俺はもうだめだ・・ぐふ」
「しっかりしろよ、ささ。まだ1000点残ってるだろ?」
「いやいや・・お前ら強すぎ・・・」



そして二人の男の子。

ささ、と呼ばれたのは佐崎拓也(ササキ タクヤ)くん。
お調子者だけど優しい男の子。


もう一人は木原文人(キハラ フミト)くん。
クールで何を考えているのかはよくわからないけど、よく優しくしてくれるいい人だ。




「いっちゃんも入る?俺抜けるけどぉ・・・」
「ささ。お前なぁ・・いつ、・・朝野が入って先輩に負けたら可哀想だろ」
「そーそー。佐崎、アンタはメンタルも弱すぎ。」



陽子が毒舌気味にツッコむ。



「ささくんはすぐ振り込むからいけないのよ?もっと考えなきゃ・・・」
「だって・・・なぁ~?」
「なぁ~って言われても、なぁ~・・・」



木原くんが苦笑いをする。
陽子も加奈先輩も楽しそうだ。





この雰囲気に慣れたのもつい最近だ。

事故前の記憶がないので、私がこの中でどんな立ち位置に居たのかは分からないけれど、
今の私はこうやって皆の冗談を笑っているのが一番しっくりくる。

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