この恋が叶わなくても
まだコールが続いている。
お婆さんは、ついさっき来たバスに乗って行ってしまった。
あ……、電話が繋がった。
『もしもし、ひろ――プープープープー…………………………
電話が切れた…?
不安が一気に広がった。
あのお婆さんみたいに、ずっと待っている間に浮気をされているのかもしれない。
本当に浮気をされていたらどうしよう、叩く?殴る?蹴る?…ううん、多分泣き叫ぶ。
こんな風に電話が繋がった途端に切られるのなら、電話がない時代でずっと待ち続けるほうがマシだと不意に思った。
それくらい、電話をすぐに切られたことがショックで悲しくて、不安でいっぱいだった。
あたしは携帯電話を片手にバス停前で立ち尽くしていた。
あたしの頭はもう、浮気以外の可能性を考えられなくなっていた。
「美春以外を愛せない」と言って何度もキスしてくれた大翔が、浮気をしている。
しかも、あたしとのデートの待ち合わせ時間を忘れて。
男は所詮そんなものか と鼻で笑えるようになるまでには、どのくらい時間がかかるだろう。
大翔を憎むことができるようになるまで、どのくらい時間がかかるだろう。一生無理かもしれない。