この恋が叶わなくても
待ち合わせ時間から20分が経った頃、あたしは焦り始めた。
事故にあったのかな?
逆ナンされたのかな?
…もしも、本当にそうだったらどうしよう。
辺りをキョロキョロと見渡し、何回も時刻を確認した。
あと、5分待っても来なかったら電話してみよう――…
そうしてあたしは、あと5分だけ大翔を待つことにした。
途中、バス停前に現れたお婆さんとあたしはこんな会話をした。
「そこのお嬢ちゃん」
『あたし、ですか?』
お婆さんは頷いた。そして
「人を待っているのかい?」
と言った。
『はい…』
「好きな男を待っているのか」
お婆さんはひとりで納得したようにまた頷いた。
「私も昔、お嬢ちゃんみたいに好きな男を何時間も待ったことがあってね。お嬢ちゃんのこと見ていると昔の私を思い出すよ」
『おばあさんは結局好きな人と会うことが出来たのですか?』
お婆さんは首を横に振った。
「電話もない時代だったからね、ひたすら待つことしかできなかったんだ。あとから知った話なんだが私がずっと待っている間に好きな男は呑気に浮気をしていたんだよ。私の約束を忘れてさ」
「ああ、お嬢ちゃんも好きな男を待っているのにこんな話をしてごめんね。けれど、今は携帯電話なんて便利な機械があるのだからいっぺん電話してみなさい」
『ありがとうございます』
そうしてあたしはすぐに携帯を開き大翔に電話を掛けた。
携帯電話を耳に当てながらどうか浮気をしていませんように、とお祈りした。