この恋が叶わなくても
「そういえば、名前は?」
『美春、です』
「美春、ね。」
先輩は歩き出した。
黙って先輩を見ていると、先輩はすぐに止まりコンクリートに寝転がった。
そういえば、先輩の名前を聞くのを忘れていた。
あたしは寝転んでいる先輩の元へゆっくり歩いて近寄った。
そして先輩から1メートルほど離れたところに座り込んだ。
『あの、名前、なんていうんですか?』
「俺の?」
空を見つめながら答える先輩。
鼻筋が通っていて、鼻が高くて、あたしの鼻も先輩みたいな鼻だったらな、と思ってしまった。
『はい』
「大翔」
『…えっ?』
ひ、ろと…?
うそ……
「冗談。裕也、だから」
笑いながら言う裕也先輩。
あたしと大翔の事情を把握しているから、自分の名前は大翔だなんて冗談言ったのかな。
もしそうだとしたら、裕也先輩は何者なの?
「おい、そんな深刻そうな顔するなよ」
『あっ…、すみません』