この恋が叶わなくても
ちゃんと裕也先輩が聞き取れたのかわからなかったけれど、二人の間にしばらくの沈黙が流れた。
と、今まで寝転んでいた裕也先輩が急に起き上がって、あたしのすぐ側に座った。あたしとの間にあった1メートルの隙間を簡単に埋めてしまった。
隙間は30センチほど。
「未練あるのか?」
『……少しだけ』
「忘れたい?」
何も言わずに頷いた。
「じゃ新しい恋しなよ」
『それは無理です』
「なんで?」
『もう、恋なんてしたくないんです』
もしかしたら先輩には、ただのきれいごとにしか聞こえなかったかもしれない。
けれど、それがあたしの本当の、今の気持ちだった。
「失恋するのが怖いから?」
頷いた。すると、
「美春ちゃんのことが好きな人と恋愛すれば、失恋なんてしなくて済むけど?」
先輩は、少しだけ得意気にそう言った。