この恋が叶わなくても


あたしと咲希は、結局保健室でさぼることにした。

階段の踊り場や、屋上でさぼると見回りの先生に見つかってしまう可能性があったから。


保健室の戸を開けると、病院と同じような匂いがした。

「誰もいないね」

『うん、丁度いいね』


保健室に来る途中には、涙は止まった。その代わり、目は予想通り赤くなった。

保健室に入り、辺りを見回して鏡を探した。


鏡は流し台の近くの壁にあった。あたしは鏡の前に立って、自分の顔を確認した。



………わっ。これは誰が見ても泣いたってわかっちゃう。

授業をさぼって良かった、と改めて思った。


あたしがもし、この顔でも授業をさぼらずにちゃんと出席して、もし大翔に“泣いた”とバレたら大翔は何を思うのかな。

昨日のことで泣いたってわかってくれるかな。…わかってくれないかもしれない。

あたしが泣いたことも、大翔にはもう無関係のことだから。
現実は厳しい。



「もう涙は止んだ?」

『うん、おかげさまで。急に泣いたりしてごめんね』

「ううん。泣きたいときは素直に泣くのがいちばんだよ」


咲希らしい言葉。
ちょっと心が晴れた気がした。


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