彼と私の饗宴
シンポジオン
はぁ、はぁ、はぁ。

荒い息づかいが心地よく耳に届く。

目の前で床にぺたりと座り込んだ女は、こちらを見ようともせず、目を伏せてただ怯えている。

はだけた胸元にはいくつもの紅い跡が無造作に残り、その部分が痛々しい。

右手に握ったままだった鋏が指先を滑り、がしゃん、と床に落ちた。女は身体をびくりと揺らした。乱れたスカートを直そうとした、その手ががたがたと震えている。

「気持ちよかっただろ??」

女は答えなかった。

「俺もすっきりしたよ」

細い手首に、先程まできつく縛り上げていた痕跡が残っているのを見て、無意識に喉が鳴った。

女は抵抗しなかった。
なぜか。
それは鋏の刃を、うっすらと白い肌に這わせていたからだ。抵抗すればその刃が女の肌を傷付けてもおかしくなかった。だから、女は抵抗しなかった。

「じゃあ、俺は行くから」

女は顔を上げない。
それでいいのだ。背を向けて、そんなことを考える。介抱する気はない。

「ま、……待って」

背中を呼び止める声に、思わず振り返りそうになった。しかし、振り返ってはいけないことを思い出す。振り替えればすべてが終わりだ。

後ろ髪を引く感情を降りきって、教室を出た。後ろ手にドアを閉め、自分のなを呼ぶ女の細い声を、完全に断ち切った。
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