アラサーだって夢をみる【12/23番外編追加】
三神さんが私の涙でびしょびしょになってしまったシャツを着替えている間に、布団を敷いて寝る準備をする。

めっちゃくちゃ泣いてしまったけど、なんだか自分が戻ってきた感じがしていた。

(恥ずかしい…)

三神さんの前であんなに泣くなんて。

(どんな顔したらいいんだろ)

そんなことを考えていたら、パタンとドアが開いた。
戻ってきた三神さんは、わあ、布団だと言ってさっさと寝そべる。
みんなも次々に中に潜っていき、毛布のあちこちが盛り上がった。

「ほら、おいで」

三神さんは少し照れたように笑い、両手を広げて私を呼んだ。
その腕の中におさまると、あたたかな体温と鼓動に包まれて力が抜けていく。

私の髪を撫でていた三神さんの手が肩や背中や腰に触れる。 

「痩せたね」

「ごめんね」

「もっと早く来れなくてごめん」

ぎゅっと抱きしめられた。

「もう二度と離れない
 ずっと一緒にいる
 一人で泣かせたりしない
 ぷう太に誓うよ
 愛してる」

大好きな人に抱かれて、愛を囁かれて、嬉しくて幸せなはずなのに。

あれからずっと夢をみた。
幾度も幾度も。
こんな風に三神さんに抱かれて眠る夢を。
姿だけじゃない。
体温や匂いや声までもリアルな夢を。
でも、いつも夢だった。
目覚める度に現実に戻る。
その繰り返しでどんどん心が死んでいくのを感じていた。

(また夢なのかな)

(これも起きたら消えてしまうのかな)

胸の奥がひんやりと冷たくなる。

「眠れない?」

三神さんの掌が頬に触れて思わず口にした。

「夢…みてるのかもって…思って」

これが夢だったなら、今度こそ私の心は完全に壊れるだろう。

「俺もだよ」

三神さんは眠るのが怖いと私を見つめる。

「全部夢で、目が覚めたらまた1人なんじゃないかって」

瞳に陰りが見えて、私と一緒なんだと思った時、タッタッタッと近寄ってくる足音がした。
離れて寝ていたぷう太がもぞもぞと真ん中に入ってきて、私と三神さんの顔を交互に舐めたあと、深く息を吐いた。
まるで、やれやれ、とため息をつくように。
モモとレオは三神さんの、ナツは私の背中にくっついて寝ている。

「みんながいてくれるから大丈夫だね」

くしゃっと笑った顔が子供みたいで、私もつられて破顔する。
三神さんはぐっすり寝れそうだと言ってぷう太を撫で、私の手を握ったまま目を閉じた。




三神さんとぷう太達と一緒に過ごす夜。

あの時、想い描いた光景の中にいる。

初雪が運んできた奇跡のような夜。


私は友樹と終わったのだということを実感していた。
でも、その事実に全く心が動かなかった。
友樹について何も感情が湧いてこない。
こんなにも冷めきっていたことを改めて知ったけど。

今はただ。

もう、友樹に気を使わなくていいのだと
もう、ぷう太達が何かされるんじゃないかと怯えなくていいのだと
本当に三神さんがここにいるのだと。

繋いだ手が暖かくて、みんなのすやすや眠る寝息が聞こえてきて、心が凪いでいく。



そして、久しぶりにぐっすり眠った。

もうあの夢は見なかった。




ー◇ー◇ー◇ー◇ー
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