愛を待つ桜
部屋から出た後、夏海は追い立てられるように階段を下りた。
ふたりとも言葉は一切ない。
夏海は踊り場の途中で足を止め、振り返った。
奇しくもそこは3年前の春、世界中で1番素敵な男性に出逢えたと、うっとりと聡を見上げた場所であった。
ほんの一瞬、踊り場の窓から満開の桜が舞い散る幻に、夏海は目を細めた。
日本人は桜が大好きだという。
1年のうちでほんの数日間だけ見事な花を咲かせ、一瞬で散ることに潔さを見る。
そして次の春にはまた、楚々として雅やかな姿を見せてくれるのだ。
夏海はふと思い出したように尋ねた。
「由美さんと赤ちゃんは無事ですか? もう、産まれたんですか?」
「いや……朝まで掛かるそうだ。状況によっては帝王切開になることもある、と」
由美がなぜ、あんな風に言い出したのか判らない。だが今は、無事に産まれてくれることを願うだけだ。聡も同じ気持ちに違いない。
「ふたりに何かあったら、私は、匡もお前も絶対に許さない」
低い声で呻くように口にする。
ふたりとも言葉は一切ない。
夏海は踊り場の途中で足を止め、振り返った。
奇しくもそこは3年前の春、世界中で1番素敵な男性に出逢えたと、うっとりと聡を見上げた場所であった。
ほんの一瞬、踊り場の窓から満開の桜が舞い散る幻に、夏海は目を細めた。
日本人は桜が大好きだという。
1年のうちでほんの数日間だけ見事な花を咲かせ、一瞬で散ることに潔さを見る。
そして次の春にはまた、楚々として雅やかな姿を見せてくれるのだ。
夏海はふと思い出したように尋ねた。
「由美さんと赤ちゃんは無事ですか? もう、産まれたんですか?」
「いや……朝まで掛かるそうだ。状況によっては帝王切開になることもある、と」
由美がなぜ、あんな風に言い出したのか判らない。だが今は、無事に産まれてくれることを願うだけだ。聡も同じ気持ちに違いない。
「ふたりに何かあったら、私は、匡もお前も絶対に許さない」
低い声で呻くように口にする。