愛を待つ桜
稔が運転する車は、中央区にある国際病院の駐車場に滑り込んだ。
分娩予約を入れてあったため、由美は救急車でそこに搬送されたのだった。

彼女は、破水していたが陣痛の間隔は微妙で、子宮口も充分に開いてはいなかった。お産までは、まだかなりの時間を要しそうだ。

あかねが病室に入り、陣痛がくるたびに由美の背中を擦り、声を掛けて励ます。

これは本来なら、夫である匡が果たすべき役目だ。
しかし、それを由美が拒絶したのである。


真っ黒のフィルターを掛け、頭から疑惑の目を向ければ、それは黒以外に映りようがない。
2度と間違いを起こさないと誓え、と詰め寄られても、


「当たり前だって! 結婚してから、1度だって間違いなんか起こしてないよ」


匡にはそうとしか答えようがない。

だが、その答えでは、由美は納得してくれなかった。


実光も本心は由美と同じだ。問い質したいことは山のようにある。だが、深夜の病院の廊下でやるべきことではない。

大企業の社長としてではなく、相応の年齢を重ねた年寄りの分別で自重していた。


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