愛を待つ桜
車を出すとき、聡は如月に引き止められる。


「なあ……3年前に何があったかは知らんが、あの子は間違いなくお前の子だ」

「一条の血を引いてることは、間違いなさそうだな」


夏海に負けず劣らず頑固なもの言いだ。
如月も苦笑するしかない。


「ああ、判った。そういうことにしておこう。聡……権利を主張する前に、義務を果たすべきじゃないか? 事情はどうあれ、彼女はたったひとりで子供を産み、育ててきたんだ。本当に大変だったと思う」

「バカを言うな! 全て、彼女の身持ちの悪さが招いた事態だぞ! もし、私の息子なら、私たちは被害者だ。3年も我が子の存在すら知らなかった。あの子もそうだ。一条家の人間として受けるべき恩恵を何も受けていない。子供に寂しい惨めな暮らしを余儀なくしたのは、全部彼女の責任だ!」

「……本当にそう思ってるのか?」


如月の静かな問いに、聡は言葉を詰まらせる。


「それは……」

「彼女に対するお前の視線は尋常じゃない。まるで、嫉妬に狂った男そのものだ」

「何を言うんだ!」

「頭を冷やせ。もう40は目の前だ。やり直しのきく歳じゃない。本当に欲しい物は何か、もう1度じっくり考えろ。聡、人生は後半分しかない……だが、まだ半分ある。今なら、3年のビハインドを取り戻すことができる」


このとき、聡の中に悠を見た瞬間の感情が呼び戻された。


「ああ、判った。考えてみる」


そう答えていたのだった。


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