愛を待つ桜
   ☆。.:*:・゜★


泣き疲れたのか、悠はあっという間に母親の腕の中で寝息を立て始めた。
夏海にしても、泣き顔のまま電車には乗りたくない。彼女は途中の公園に立ち寄り、ベンチに腰掛けた。

ゴールデンウィークは今日が最終日だ。
明日からはいつも通りの日々に戻る。

子供の顔を見て、聡は明らかに動揺していた。
彼も少しは、自分の犯した罪を自覚したのだろうか。
鯉のぼりを買うなどと言い出したのは、そんな反省もあったのかも知れない。

聡がもし、3年前のことを後悔して謝ってくれたなら……。


「ありえない、よね」


悠の顔を見つめ、夏海は小さな声で呟いた。

10分ほど休憩し、夏海は立ち上がった。再び、駅に向かって歩き始める。
少し歩くと、後ろから迫ってくる車のライトに気づいた。
夏海は小走りで道路の脇に避け、やり過ごそうとする。
ところが、夏海の脇をすり抜けたワンボックスはブレーキを掛けると、夏海の近くまでバックしてきたのだ。

一瞬身構えて携帯を握り締める。

しかし、運転席から降りてきたのは、なんと聡であった。


聡は微妙に悠から目を逸らせつつ、夏海に短く声を掛ける。


「乗るんだ。送って行く」

「結構です!」


夏海の返答は更に短い。そのまま無視して横を通り抜けようとした。


「いいから乗るんだ!」


聡の怒声に夏海が言い返そうとしたとき、


「いや……まだ夜は寒い。子供に風邪を引かせたくないんだ。乗ってくれないか」


不意に弱まった口調に、夏海も矛先を失った。


「そんなに迷惑か?」

「それは……」


後方に再び車のライトが照らし出され、夏海は促されるまま車に乗り込むのだった。


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