ランデヴー
私にとって倉橋君の気持ちを受け入れるという選択は、万に一つも有り得ないことだ。


確かに――倉橋君の気持ちに応えることができたらどんなにいいだろう、と考えない訳ではない。


今まで倉橋君を見てきて良い所もたくさん知っているし、あの温もりに縋りたいと一瞬でも思ってしまったことは事実だ。



でも実際倉橋君と付き合ったら……と想像してみたが、彼といる自分を思い浮かべることができなかった。


私が隣にいて欲しいのは、やはり陽介なのだ。



だが陽介との関係を諦めきれない私が、倉橋君に私のことは諦めて欲しいだなんて、どんな顔をして言えるだろう。


もはや私が何を言っても、説得力の欠片もないことはわかっていた。



しばらくはボールペンを持つのが痛かった右手の人差し指は、時間が経てば良くなっていく。


それでもそこに残る傷は、倉橋君との出来事を嫌でも私に思い出させた。



そんな出口の見えない迷路に迷い込んでしまったかのような悶々とした日々を過ごしていた私の携帯が震えたのは、ちょうど1Fの受付の前を通り、会社を出て帰宅の途につこうとしていた時のこと。


携帯が震えてもそれが陽介からではないという現実を何度となく味わいながらも、毎回心のどこかで「陽介かもしれない」と思っている。
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