ランデヴー
「お先に失礼します」


たまらずそう言って帰ろうとした私の後ろから、佐原さんの意味不明の一言が追いかけてきた。



「おい、倉橋。お前送ってやれよ」


望んでもいないのにそんなことを言われ、佐原さんをグーで殴りたくなる。



私は一瞬足を止めかけたが、聞こえなかったふりをして立ち去ることにした。


だが更に追い打ちをかけるように、別の声が私の逃げ道を塞ぐ。



「あ、はい。了解です」


断ることなく当然とばかりに、倉橋君がそれを引き受けてしまったのだ。



もはや知らん顔できなくなってしまった私は、振り返るといかにも『申し訳ない』という顔を作り出した。



「大丈夫です! 1人で帰れますから! ほら、倉橋君もまだ仕事残ってるでしょう?」


空気を読めと言わんばかりに倉橋君を睨み付けて圧力をかけるが、彼は全く動じることなく既に会社を出る準備を始めている。



「いえ、大丈夫ですよ。もう終わりましたから」


しれっとした顔でそう言うとてきぱきと帰り支度を整え、「お先に失礼します」と挨拶をした後に私の隣に並んだ。
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