ランデヴー
「あのさ、あともう1個……。風の噂で聞いたんだけど……」


「ん？」


佐和子がものすごく言いづらそうに、一瞬言い淀む。


その表情を見て、私はすぐに何が言いたいのかを理解した。



「うん、そうだよ。奥さん、妊娠したんだって」


「そ、っか……」


そう。
先月、陽介の席を囲んでみんなが盛り上がっていた。


そういうお祭的なことが好きな佐原さんなんて、わざわざ私の席にまでやって来て「香川の奥さんおめでたなんだってさー」とご丁寧に教えてくれた。



一瞬胸がズキンと痛んだことは、否定しない。


でも……私はもう陽介のことを過去の人として受け止めることができていた。


「そっか……」と心の中で納得させただけ。



『おめでたい』とは思わないが、『良かったね』とは思う。


陽介にとっても、響子さんにとっても。


これが1番良い未来の形だったのだと、そう思った。
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