ランデヴー
彼女だったら例えどんな用事があっても、全てを断って彼の誘いを受けるだろう。


前田さんの甘ったるい声が、勝手に頭の中に浮かんできた。



そして、誘った相手から断られてしまった倉橋君と、誘うこともできない自分とを並べて考えてみる。


何だか似た者同士のような気がした。


そんな2人で花火を見に行くのも、悪くないかもしれない、と。


何となくこの時の私は、そうぼんやりと思った。



「じゃ、決まりですね。俺、楽しみにしてますから」


返事をしない私を見て勝手に「YES」と解釈したらしい倉橋君は、嬉しそうに破顔した。


そんな顔をされると、もう「NO」とは言えない空気になってくる。



別に花火を見て帰るだけ。
ただそれだけのことに、何をそんなに躊躇う必要があるのか。


そう思う気持ちとは裏腹に、本当にそれでいいのか、と問い掛ける自分がいる。



ただの後輩。
そう認識しているはずなのに、何故かやましい気持ちがひょっこりと顔を出して、心の隅の方に居座っていた。


私はそれを拭い切れないまま、どうしたものかと思いあぐねるのだった。
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