にょんさま。



 一般の通行人にはやはりにょんたちは見えていないのだろうか?

 見えないはずの何かとおしゃべりしている様子のふたりのイケメン男子を、大丈夫かとでも気遣うように見て通りすぎてゆく。

 その時、ソプラノのよく通る声が四季を呼んだ。

「四季くん!」

 笑顔で手を振っている。

 以前、忍に贈った指輪を川に投げ捨てた女王様。高遠雛子だった。

 眉間にシワを作ったのは由貴の方だった。四季の彼女である忍は、由貴の友達でもある。

 端から見ていても四季と忍が好き合っているのは明らかなのに、何かにつけ、その仲を邪魔しようとする雛子のことが由貴は嫌いだった。

 それで従兄の四季や忍が傷ついたり困ったりしているのは見るに堪えかねた。

「四季に何の用?」

 高遠雛子は綾川由貴までがいることは予測していなかったのか、露骨にムッとしたようだった。

「あなたこそ四季くんに何の用よ。四季くんの彼女でもないくせに、こんなことまで口出し?四季くん、気分転換にひとりになりたかったんじゃないの?何であなたが四季くんと一緒にいるのよ」

 由貴はそれに反論しようとしたが、四季が庇うように言ってくれた。

「由貴とはさっき偶然ここで会ったんだよ」

 四季が発言してくれたことで、由貴は言葉を控えた。そこでたたみかけるように雛子に対して言葉を重ねても、言葉の倍返しがあるだけで、無意味に思えたからである。

 由貴を庇うような四季にも腹が立つには腹が立つが、四季が従弟の由貴を大事に思っているのは今に始まったことではなし、由貴も言い返しては来なかったので、雛子はさっきより穏やかに由貴に聞いた。

「じゃあ何してるの?」

 険のないもの言いは、由貴の雛子に対する反応も和らげた。由貴は「ここ」とにょんがいる方を見た。

「高遠さん、見える?」

 雛子は怪訝そうに地面を見る。何か小さいものでも落としたのかというように、身体を屈めた。

「コンタクトでも落としたの?」

 最近由貴が眼鏡をかけ始めたのを雛子は知っている。それでコンタクトという連想に繋がったのかもしれないが。

 が──にょんはコンタクトと比に出来ないくらいにはわかりやすく大きい。鏡餅くらいには。にょんのいるところを一見して姿が視認出来るようなら「コンタクト」という言葉は出てこないように思われた。つまり。

 雛子にはにょんが見えていない。

「何?違うの?」

「あ…。うん。何かあったような気がしたんだけど…。目が疲れてたのかもしれない」

 そのまま言うのも余計ややこしくなりそうだし、由貴はそんな言い方をした。

「四季くんも何か見えたの?」

 素朴な疑問は四季にも向けられた。最初に見たのは四季の方なので、四季は由貴をフォローするような言い方をした。

「うん。何かね…。最初僕の方が見た気がして、そこで偶然由貴に会ったから、由貴に聞いていたんだよ」

 高遠雛子は気にしない方がいい、とでも言いたげな表情になった。

「ふたりとも、何かいろいろ考えすぎなんじゃないの?疲れてるのよ」

 いつになく優しい雛子の言葉。

 その表情には四季を気遣う様子も見えた。





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