琥珀色の誘惑 ―日本編―
その直後、例の黒塗りベンツからSPが近づき、馬上の王子にアラビア語で小さく声掛けた。

彼は無言で頷くと、


「舞、私は戻らなければならない。今日より五日後、私たちの婚約が公表され、お前は私と共にクアルンに帰ることになる。準備をしておくように」


自分の用件だけ伝えると、白馬に乗った王子様はカッポカッポと去って行く。

しばらくして、舞はようやく我に返った。


(ちょっと待って!? 五日後ですって! 冗談じゃないわよっ。愛はどうなったのよっ!)


ミシュアル王子の後を追い、そう問い質そうとした瞬間、舞は後ろから肩を押さえられた。


振り向くと、公務員宿舎の自治会長を務める四十代前半の女性が立っている。
その顔は明らかに憤慨していた。


「何ですの、あの人は? 今のは何かの撮影かしら? どうでもよろしいけれど、月瀬さんのお嬢さん。ちゃんとアレの責任は取ってくださいねっ」


自治会長が指差した先にあるもの……それは、通路の真ん中にこんもりと積まれ、ホカホカと湯気まで立っている。


数分後、清掃用のデッキブラシで路面を擦りながら、白馬もただの馬なんだ、と悟る舞であった。


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