絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「やめてよ……。そういうの、なんか違う」
 上で夕貴と阿佐子が待っている。その支えだけで、本心が何倍にも膨らむ。
『……何が?』
「………、いいよ、もうやめよ。もう私、やめたい」
『……何を……、別れたいってこと?』
「……うん」
 薄暗く、動かない植物をただ見つめた。吐く息が白く、頭も冷たいが、口元の頬だけは、紅潮していた。
『どうして?』
「……私、ずっと疑問を抱いてた。だけどやっぱりそれが……」
『榊のこと?』
「………うんそう……そうだね」
 全てのことがどうでもいいと、何も考えずに発した。
『今日会って、やっぱりそういう気持ちになったってこと?』
「それはちょっと違うけど……。今、病院にいて……」
『ナイーブになってるだけだよ』
「違うわ……、だって私、ずっと思ってたんだもの。ごめんなさい。私が……悪いの」
 左手で額を抑えた。目を閉じてしまいたかったが、今はしっかりと会話をしなければならない。
『何が悪い? いや、会って話をしよう』
「嫌、私、会うとちゃんと話ができない」
『いや、会ってからの方がいい』
「今日は会わない。お願い。ごめんなさい。……、とにかく、だから、結婚できるような人を他に探して」
『何を……怒るよ』
「本当のことよ……」
『俺が君と付き合ってきたのは絶対にいい加減な気持ちじゃない。だけ……』
「辛いの。誰ともいたくない」
 そう、榊と一緒にいても落ちつくわけじゃない。
 夕貴と一緒にいても落ち着くわけじゃない。
 宮下と一緒にいても、落ち着くわけじゃない……。
『……分かった、今日明日は連絡を控えよう。だから明後日、連絡する』
「……好きにして。もう切るわ」
 そこまでしなくてもよかったと思う。だけどこれ以上宮下を嫌いたくなかったから。
 香月は強引に電話を切った。
 ピッと、あっさり。
 まるで、宮下との関係を切るかのように。
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