2年3組乙女事情
立ち止まってたせいかもしれない。
ほとんど白に近い金色の髪の若い男の人が、にっこりと笑いながら話しかけてきた。
「ボク、すぐ近くの美容室で働いてるんですけど、カットモデルの方を探してて。
あ!でも、カットモデルって言っても普通のカットモデルとは違ってお客様の希望通りの髪型にできるようにちゃんとカウンセリングもするんですけど」
「はぁ……」
「ボク、実はまだ見習いなんですよ。見習いって言っても働き始めてから7年のほぼヒヨコなんですけど。
このパンフレットの番号に電話してから来店していただければ、安い値段でカットでも何でもできるんで!」
もう一度にっこりと微笑まれて、思わずパンフレットを受け取った。
クリスマスのカードみたいに2つ折りになったパンフレットには、メニューと料金がつらつらと並んでる。
「これ、カットが1600円って……破格じゃないですか?」
「いや、デビューは間近だけど見習いだし。そうは言っても、この値段は大安売りですよ。買わなきゃ損、みたいな」
「でも何かそれ、実験台みたい……」
「実験台だってことは否定しないけど……。
でもほら!実験って大切なデータを集めるためにやるものでしょ? それって、絶対に失敗できないものじゃないですか!失敗したらデータも集まらないし、下手したら自分も怪我をするかもしれないし……
そう思ったら、実験台側はともかく、実験する側は結構真剣なはずじゃないですか?」
さっきまでのセリフと違って、少し考えながらだからか、金髪さんはゆっくりと言葉をつないだ。
「だから、実験台でいいんです!お客様は、実験台の気分で気軽にいらして下さればいいんです。
そうしたら、実験する側のボクが、真剣に慎重に丁寧に頑張りますから!」
もう長い時間、外にいるのかもしれない。
頬を少し赤く染めた金髪さんは、もう一度、にっこり笑った。
「それにオレ、ほぼヒヨコだって言ったじゃないですか?だから、心配しないで下さい!」