純情、恋情、にぶんのいち!




翌日の放課後、わたしはやっぱりどうしてもまっすぐ家に帰ることができず、化学準備室に向かっていた。

わたしの上履きにはもう、この場所を目指してしまうことがインプットされている。


先生は怒るかもしれない。

それとも、今度こそ本当に、そんなものは通り越して、嫌われてしまうかもしれない。


自分で扉の前まで来ておいて、ノックをためらっていると、突然ドアがおもいきり開いた。


「……おや」


眼鏡ありの先生だ。

なにか言いたげな瞳に、静かに見下ろされて、わたしも目を逸らすことができない。


人気(ひとけ)のない廊下に沈黙が伸びていく。

長い、長い、それを経て、最初に口を開いたのは先生のほうだった。


「……きょうは、なにか用がありましたか」


あまりにも他人行儀な言葉。

それに自分勝手に傷ついてしまい、押し黙っていると、ふう、上から息を吐く声が聞こえた。


「きみは本物のお馬鹿さんなんですか?」

「……だって、」

「“彼”があれほど言ったのに」

「だって……先生、」


なにかを言いたいはずなのに、次の言葉がいっこうに見つからない。

先生がそっと体を横にずらし、それから、わたしに背を向けて室内に戻っていく。

入ってもいい、と、背中が言ってくれている。

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