純情、恋情、にぶんのいち!




学祭が終わるなり、学校のなかは一気にクリスマスムードへと変わった。

後夜祭のおかげでカップルは確実に増え、教室や廊下でイチャつく男女が、どこをむいても否応なく目に入ってくる。


「クリスマス?」


コーヒーを飲みながら、単語を確かめるように聞き返したヨウ先生の目には、きょうは眼鏡がかかっていない。


「そんなもん気にしてる暇なんかねえよ。期末テストの成績処理とか、冬休みにむけた準備とか、いろいろ忙しいんだよ」

「う……」


わが国では休日でなく、単なる平日として扱われている、12月25日。

わたしたち学生だって普通に登校日なわけで、つまり、先生にとっては、いつも通り仕事をする日に変わりない。


けれど、せっかくのクリスマス。
一年に一度のクリスマス。

恋人たちの、クリスマス。


「そんなことより、おまえ、ちゃんと期末の勉強してんのか」

「ギクッ」

「わざわざ丁寧に効果音まで言わんでもよろしい」

「……だってえ」


先生は呆れたように少し笑い、ぽんぽん、と自分の膝を軽く叩いた。


「こっちに来い」


キャスター付きの先生の椅子。
わたしの体重の分も乗っかると、あまり新しくないそれは、苦しそうにギシッと鳴いた。

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