純情、恋情、にぶんのいち!
今度こそ、心臓が止まったのかと思った。
「チィちゃんの黒髪ボブもいいけど、さやちゃんの色素薄めのロングヘアも捨てがたいから、困るよね。おれ、女の子の髪ってすごい好き」
さりげなく触れようとした指を、さーちゃんはものすごい反射神経でピシャリと払った。
本当にそれは、ヤス先輩がどうこうでなく、さーちゃんの体にしみついた条件反射、という感じだった。
驚いたように、そしてなにか探るように、じいっとさやちゃんを見つめ続けるヤス先輩。
そして、その様子を見つめるわたし。
またまたそれを見つめる、クラスメートたち。
「――泰人!」
ほんの一瞬の静寂ののち、今度はキラキラした声が教室に響き渡った。
このキラキラオーラの持ち主、もはやふり返るまでもなく、とーご先輩で間違いない。
「おまえなー、クラスの作業ほっぽって遊びまわるなよ」
「だって面倒だし? なんだかんだ言いつつ、冬吾がおれの分までカバーしてくれるのも知ってるし?」
「だからといって後輩の教室に来るのはやめろって。せめて同学年に……」
「えー。だって2年のクラスはどこ行ってもいないじゃん、さやちゃんが」
そう言いつつ、さりげなくさーちゃんの肩に手を回すヤス先輩は、やっぱり手練れの遊び人だ。
さーちゃんは、今度はその手を振り払うことはせず、そのかわりいっさい無視して、自分の作業を続けている。
「そう言う冬吾だってさ、おれが1Bに来ることによって、チィちゃんに会う口実になるんだからよくない?」
え、と短く漏れたのは、とーご先輩の声によってかき消されてしまった。
「泰人! それ以上よけいなこと言ったらほんとに怒るからな!」
いつも爽やかで優しいとーご先輩が本当の顔をして言ったのに、ヤス先輩はおかしそうに軽い感じに笑い、それから「あーあ」と息を吐いた。
そして、しゃがんでいた体を立ち上がらせ、なぜか今度は、わたしのすぐ隣にやって来る。