カモフラージュ
その時、ホワワワワワワワァン、と間抜けな音が辺りに響く。

床にはピカピカに磨かれた銀色のトレイ。
静まりかえる店内。
集まる視線。


あたしがテーブルを叩いた音に驚いて固まっていたウェイトレスが

「申し訳ございません!」

我に返り深々と頭を下げ、落としたトレイを拾うと、早足で厨房の奥に消えて行った。


それを合図にあたし達に集まっていた視線はそれぞれの元へ戻り、ラウンジは喧騒を取り戻す。


一瞬、あたしの意識が他へ向いた隙に

「ちょっと探して来るわね」

なんて言いながら、叔母さんはロビーを抜け、エントランスに向かう。


逃げられた!

思いながらも追っていく元気もなくて、ふかふかのソファーに身体を沈める。


帯が潰れるけど、もう意味ないし。


見上げた天井には美しく輝くシャンデリア。

明るく降り注ぐ光りは不幸満載のあたしには刺激が強すぎ。
これ以上浴ていたびら溶けてなくなりそうな気がして、

「帰ろ」

ぽつりと呟き席を立った時だった。               




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