カモフラージュ
「で、来るの? 来ないの?」

あたしの吐き出した声は低く地を這い、叔母さんを震えさせる。

「さっきから電話してるけど出ないのよ」


携帯をパカパカ開閉しながら、叔母さんは汗を拭う。

あたしの全身から出てるだろう隠し切れない殺気も、叔母さんの体温は下げられない。


「どうしたんだろうね? 携帯の電池、切れたかな」

ハハハ、と笑われても、こっちはさっぱり面白くない。

むしろあり得ない言い訳に怒りが増す。


「叔母さん、あたしこのお見合いに懸けてたの。朝から美容室行って着付けして、髪の毛も結って。御飯も食べてないの」

「ゴメンねぇ、千秋ちゃん」

「リストラされて、派遣切りにもあって、会社倒産も経験したの。後がないの!」

ギロリと叔母さんを睨むと、その太った身体を更に小さく縮める。

叔母さんを責めても意味はない。

分かっていても口は止まらなくて。


「もう二時間は遅れてるよね? もう来ないってことだよね?」

「本当にごめんなさい」

「ゴメンで済んだら警察は要らないの!」

バシン、とテーブルを叩く。

コーヒーカップが数センチ飛びはね、中身の減っていない叔母さんのコーヒーが飛び散った。


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