惑溺
 
 
「じゃあ今日はもう帰って、俺のうちでゆっくりしようか」

聡史のその言葉に含まれた甘いニュアンスに気づかぬふりをして、私は小さく首を振る。

「ごめん、今日はもう帰る……」

「そっか。わかったよ、家でゆっくり休めよ」

明らかに不自然な態度の私にも、聡史はその優しい態度を崩さず、気遣ってくれる。

せっかくのデートにこんな浮かない顔をしてるのに。
気を悪くするわけでもなく、いつものように笑って流してくれるのは、
聡史の優しさなの?

それとも、私の考えてる事なんてどうでもいいの?

なんでだろう。
優しく笑ってくれる聡史が、ものすごく遠く感じるのは。


今まではずっと、お互いに干渉しない自立した付き合いが心地いいと思ってたのに……

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