惑溺
 
そうか。
いつかリョウの部屋を片付けた時に、ゴミ袋に放り込んだ小さな香水の瓶。
それと同じ甘い香り。

この子が、あの香水の持ち主。
あの手紙を書いた本人なんだ……。

リョウはこんな綺麗な子と付き合っていたんだ。

目の前に立つ、性格も外見も私とは正反対の彼女を見て、ずきりと心臓が痛んだ。


「私は……」

そう口を開いた私の言葉を遮って、彼女は棘のある口調で吐き捨てるように言った。

「あんたみたいな真面目そうな女、騙されて金だけ取られてすぐ捨てられるよ」

「騙されて、お金を……?」

リョウが?
リョウがお金を騙しとるなんて。
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