惑溺
 
カツ、ヒールがコンクリートを蹴る尖った音をたてて、また彼女が一歩私に近づく。
甘い香りが濃くなった。

「リョウは女の事なんて玩具くらいにしか思ってないよ。
どんだけ尽くしたって無駄だから、さっさと別れなよ」

「私はそんなんじゃ……」

「どうせ強引に誘われるうちにハマっちゃったんでしょ?
親はいない、とか死んだとかテキトーな嘘言ってさ。
女を同情させておいて、こっちが夢中になったらすぐに飽きて冷たくなるんだから」

「私には、小さい頃親に暴力ふるわれてたって言った……」

過去を話した時のリョウを思いながら呟くと、女の子は『ほらね』と、冷たく笑った。

「嘘ばっかり言って女を騙して楽しんでんだよ」
< 204 / 507 >

この作品をシェア

pagetop